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エッセイ
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おぼん事件
（友人の友人Ｉさんエピソード１）
1999/11/21
私の友人の友人に、Ｉさんという人がいる。
ちょっとした、いくつかのエピソードの持ち主で、親しみが湧き、とても他人とは思えない。(^^)
私が知っているエピソードについて、ここで紹介してみたい。
Ｉさんは、徳島市内の会社に勤めるサラリーマンである（らしい）。
あるときＩさんは、仕事で香川県高松市へ出張に出かけた（らしい）。
ちなみに、徳島市と高松市はＪＲで２時間の距離である（らしい。以下略）。
午後の仕事が終わり、ちょっと飲みに行くことになった。
Ｉさんはお酒が好きである。
徳島まで２時間なので、その日のうちに帰ることができたが、なぜかＩさんは高松市内のビジネスホテルに急遽チェックインして、飲みに出かけた。
したたかに飲んだＩさんは、無事ビジネスホテルに辿り着くことができた。
部屋に入り、服を脱ぎ捨て、そのままベッドに転がり込んで寝てしまった。
しばらくして寒さと尿意で目が覚めた。どうやら素っ裸で寝てしまっていたらしい。
部屋は暗かった。月明かりの中で明かりのスイッチを探し、押してみたが明かりは点かない。
部屋のなかをうろうろしてみたが、よく分からないので、とりあえず暗闇のなかトイレを使った。
手を洗ったあと、あらためて部屋の明かりがなぜ点かないか、酔った頭で考えた。
部屋のなかのスイッチ類は全部試してみたが、明かりは点かなかった。
Ｉさんは、部屋の外になにか仕掛けがあるのではと思い、ドアを開けて廊下に出てみた。
ドアの回りを見ても、それらしいスイッチ類は見当たらなかった。
仕方なく部屋に入ろうとすると、目の前でカチャリとドアが閉まった。
オートドアロックだった。
Ｉさんはそのとき、本当に素っ裸だった。パンツも靴下もつけていなかった。
つけているのは、メガネだけだった。
Ｉさんは、男性である。股間を手で覆い、ホテルの廊下で一人途方にくれた。
オートドアロックは、無情にもびくともしない。
一人で泊まっているので、助けを求める知り合いもいない。
ビジネスホテルなので、廊下には電話もない。
フロントに行くしかなかった。
ふと目をやると、隣の部屋のドアの前に、その部屋の客が食べ終えたであろう店屋物が置かれていた。
おぼんの上に、どんぶりやコップが並んでいた。
Ｉさんはどんぶりとコップを横に置いて、おぼんを手にとり、それで股間を覆った。
（どんぶりでお尻を隠すことまでは思い至らなかったらしい）
Ｉさんの泊まっている部屋は５階だった。
階段で１階に下りようと思った。
階段は、荷物が山積みされていて、通れそうになかった。
エレベーターで行くしかなかった。
幸い深夜だったので、Ｉさんは誰にも会わずにエレベーターで１階まで行くことができた。
フロントの人は、おぼん姿のＩさんを見ても、特に驚いた様子ではなかった。
（ホテルではこういうことはよく起こることで、フロントの人も慣れているんだろうと、Ｉさんは分析している）
フロントの人に連れられ、Ｉさんはエレベーターで５階に戻った。
Ｉさんは、終始フロントの人に正面を向くように、フロントの人を中心とした円を描くように動いた。
合鍵で、無事Ｉさんは部屋に入ることができた。
部屋はカード式になっており、チェックインで受け取ったカードをフォルダーに差し込めば、部屋のスイッチで明かりが点いた。
フロントの人を見送ったＩさんは、とりあえずパンツをはいた。
隣の部屋の前に行って、おぼんを返し、どんぶりとコップを元に戻すことも忘れなかった。
翌朝、何事もなかったようにＩさんはチェックアウトした。
フロントの人も特にどうということもなかった。
ただ、「またお越しくださいませ」のひと言が、妙に鮮やかに印象に残った。
後日、Ｉさんのもとに、このビジネスホテルからハガキがきた。
見ると「またお越しくださいませ」と書かれている。
旅館ならいざ知らず、通常、ビジネスホテルからお礼状が来ることは、まずない。
Ｉさんは、フロントの人のこころくばりにうれしくなった。
但し、その後Ｉさんは一度もこのビジネスホテルに泊まったことはない・・・
以上が、のちに「おぼん事件」と呼ばれるようになった、Ｉさんのエピソードである。
（続く？）
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